悼む人 | 死を受け入れる方法について
人間の根源について考えてみるドラマ
『悼む人』(2015/日本)
監督:堤幸彦 出演者:高良健吾、石田ゆり子、井浦新、貫地谷しほり、椎名桔平、大竹しのぶ
「悼む」ってなんだ?
不思議なお話でした。主要な登場人物の背景がみんな複雑なんですけど、原作を読んでいないので、なかなか深く理解するには至らなかったような気がします。原作者の天童荒太は、9.11がきっかけで世の中の不条理な死に無力感を覚え、実際に各地で亡くなった人を悼んで歩いたのだそうです。その体験に基づいて書かれたのが、この映画の原作というわけです。
あらすじ:「悼む」ために旅をしています。
様々な人たちの死を「悼む」ためにひとりで旅をしている青年・坂築静人(高良健吾)。端から見ると奇妙なその行為は、彼にとっては大事なものでした。ある人物を悼んでいるとき、彼は奈義倖世(石田ゆり子)に出会います。ある悩みを抱えた彼女は、静人に同行することに。一方、静人の実家では、母・巡子(大竹しのぶ)が末期癌に冒され、また妹・美汐(貫地谷しほり)は新しい命を宿っていました。
- 不思議な世界観
- いろんな死を感じる
- ベテランキャストが魅せる
主人公の静人は、過去友人の死に直面した時とても悲しみ、しかしその悲しみも薄れていくということに強く傷ついてしまったという過去があります。悲しみが薄れていくというのは、きちんと悼んでいた証拠なのではないかと私は思いますが、彼はそれから自分なりの「悼み方」を編み出し、見知らぬ人の死でさえ悼んでまわるようになるのです。……客観的に見て、かなり奇妙な人物です。そもそも「悼む」ってなんだっけ。
いた・む【悼む】
人の死を悲しみ嘆く。「恩師の死を―・む」
彼の「悼み方」はいささか、「悲しみ嘆く」とはニュアンスが違うような気もします。それは死を悼むというより、生を称えるというようなものでした。生を肯定することで、死を受け入れるような。死に方や死ぬこと自体が重大なわけではなく、確かにそこに生きていたことや誰に愛されていたかということこそが大事なのだと。修行僧のような雰囲気をまとった静人の、その原動力が実は心の弱さだったりするのは興味深かったです。
「死」ひいては「生きること」がテーマの映画なので、いろんな死が登場します。待つ死、後悔の死、期待の死。生き方に個性があるように、死に方にも個性があるのかもしれない。キャラクターに感情移入はできなかったけど、井浦新と椎名桔平がそれぞれイヤ〜な男を演じ切っていて、お見事でした。怪演!
[Photo: © 2015 「悼む人」製作委員会/天童荒太]
高良さん、無表情の役が似合います。