カミハテ商店 | それは世界の果てにある商店
死に対する人間の無力さと葛藤を描く
『カミハテ商店』(2012/日本)
監督:山本起也 出演者:高橋惠子、寺島 進、あがた森魚、水上竜士、深谷健人
最後の晩餐に、コッペパンと牛乳。
自殺の名所となってしまった崖のある寂しい町「上終(カミハテ)」。世界の果てとも言える様相のその町で、小さな商店を営みながらひとり静かに暮らす寡黙な初老の女性。自殺しに来た人はその商店でコッペパンと瓶牛乳を買って最後の食事をする。というストーリーがまず面白いです。生きることや命がテーマなんだけど、命が過剰に大切に扱われていないところが良いです。逆に、死にたい気持ちを理解しようというのでもないです。そこにあるのは、普通の人間の無力さと葛藤でした。
あらすじ:カミハテには死にたい人たちが集まってきます。
山陰にある寂れた港町、上終(カミハテ)で暮らす初老の女性・千代(高橋惠子)は、小さな商店で自分の焼いたコッペパンと瓶に入った牛乳を売りながら、ひとり静かに暮らしていました。牛乳配達の青年・奥田(深谷健人)や役場の須藤(水上竜士)以外に店を訪れる人間は、死に場所を求めてやってきた自殺者だけでした。彼らは、おそらく最後の食事としてコッペパンと牛乳を買い求めてゆきます。
- 高橋惠子さん23年ぶりの主演
- コッペパンと牛乳が美味しそう
- 味のあるBGM
この映画は、京都造形芸術大学映画学科のプロジェクトで作られたものです。「北白川派」という学科プロジェクトで、プロと学生が一緒になって劇場公開映画を作っているそうです。面白い企画ですね。
コッペパンがとても美味しそうでした。それはおそらく撮り方によるものではなくて、物語自体に暗い空気が充満する中で、無条件に幸せを感じることができる要素だったからだと思います。食べることはそれだけで幸せです。最後の晩餐を何にするか?という問いについて考えたことがある人も多いと思いますが、コッペパンと牛乳、案外ありかもしれません。質素で慎ましいところが良い。トンカツ定食をもりもり食べて自殺するよりずっと想像もしやすいです。
冒頭にも書いたように、この映画で描かれているのは無力感です。特に何かを肯定したり、否定したりはしません。多くの自殺者を見送りながら、千代もまた静かに葛藤していました。彼女はすべてを受け入れているわけでも、すべてを諦めているわけでもなかった。図らずも死と直面するような境遇になってしまっただけ。自分だったらどうするかなと考えてみたんですが、コッペパンじゃなくてビッグなハンバーガーとコカコーラを売ってみたらどうでしょう?さらに人懐っこいネコでも飼ったら、みんな死ぬ気を失くしてくれるかもしれない。
民族楽器のようなBGMがまた味があって良かったです。美しすぎる音色じゃなくて良かった。じんわり心に響きます。
[Photo: © 2012 北白川派]
死にたくなったら観たい。
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