気狂いピエロ | 男と女、刹那と永遠
エネルギーに満ちたヌーベルヴァーグの名作
『気狂いピエロ』(Pierrot Le Fou/1965/フランス・イタリア)
監督:ジャン=リュック・ゴダール 出演:アンナ・カリーナ、ジャン=ポール・ベルモンド
伝説の刹那を体験せよ!
すごく好きな映画なんだけど、おすすめする際に言葉がうまく出てこない映画でもあります。鑑賞というより「体験」と言った方がしっくりくるような。鑑賞、つまり作品を理解して味わうには突飛で強烈すぎるのです。少なくとも受け身ではポカンのまま終わってしまう。けど積極的に感じていこうとするとどこまでも楽しめてしまうような面白さがあるんですよね。貪欲に映画を感じたい人におすすめです。
あらすじ:都会の生活に退屈した男と女の愛の(?)逃避行。
“気狂いピエロ”と呼ばれるフェルディナン(ジャン=ポール・ベルモンド)は都会での妻との生活に退屈していました。そんなある晩、彼はパーティーでマリアンヌ(アンナ・カリーナ)と再会し一夜をともにします。翌朝なぜか彼女の部屋には見知らぬ男の死体が。なにやら面倒な事件に巻き込まれた様子の彼らはそのまま南仏へ逃亡することに。
- 詩的に楽しむ
- 鮮やかな色彩美
- このラストシーンは伝説でしょう!
ひたすら愚かなフェルディナンという男の話です。ギリギリ物語の体裁はとってるけどストーリー主体ではなく詩的に楽しむ映画です。そこには具体的な事物よりも思想や概念といったものがメインで描かれています。「退屈」「愛」「破壊」「死」といった抽象的な概念が、映像や朗読や絵画をツギハギしながら表現されているのです。あとミュージカルシーンも挟まってたりして表現の多様性も魅力ですね。
書物からの引用も多く、特にラストの『L’Éternité(永遠)』というランボーの詩の朗読は印象的です。真っ青な空と海の映像で刹那の終わりを感じさせる最高にかっこいいラストシーン!とびきり刹那的に描かれた男と女の逃避行劇の終わりが永遠、というのも面白い話。
外面的な見どころも溢れていて、どのシーンを切り取っても絵になる美しさ(いや逆にまるで絵をつなぎ合わせたような映像というべきか)、鮮やかな色彩美は一見の価値ありです。赤、青、黄色という”ゴダール三原色”(勝手に名付けました)が本当に美しいです。観終わった後にはいつもこの映画のエネルギーに圧倒されて、あー…やっぱり凄かったと思ってしまうんだな。そしてフェルディナンの同情するほど愚かな最期も伝説である。
[Photo: © 1965 STUDIOCANAL IMAGE./ SOCIETE NOUVELLE DE CINEMATOGRAPHIE / DINO DE LAURENTIS CINEMATOGRAPHICA, S.P.A. (ROME)]
詩的に楽しむ。