エレファント | どこで狂ったんだろう？

あえて青春映画と呼びたい

エレファント

『エレファント』（Elephant／2003／アメリカ）
監督：ガス・ヴァン・サント　出演者：ジョン・ロビンソン、アレックス・フロスト、エリック・デューレン、イライアス・マッコネル、ジョーダン・テイラー

狂気は日常のすぐそばに。

コロンバイン高校銃乱射事件（アメリカの高校で2人の男子生徒が銃を乱射し、多くの犠牲者を出し犯人たちも自殺した事件）を題材にした映画です。もちろん事件自体も描かれていて、その描写もけっこうショッキングなのですが、それよりも事件にいたるまでの日常を描くことに重点の置かれた映画です。思春期の少年の繊細な心の機微がゆっくりと静かに描かれる様は美しく、そしてそんな日常と対比させることで事件はより一層残酷さを極めていきます。

エレファント
あらすじ：退屈なほどいつもと同じの日常でした。

ある郊外の高校に通うジョン（ジョン・ロビンソン）たち生徒は、いつもと変わらない普通の1日を過ごしていました。部活動、退屈な授業、学食でおしゃべりする女の子たち、ダイエット。そして、いじめられっ子のアレックス（アレックス・フロスト）と親友のエリック（エリック・デューレン）が重装備で校舎に入っていくのをジョンは目にします。

見どころ

特徴的なカメラワーク
オーディションで選ばれた高校生たちのリアルな演技
なにもわからなくてOK

コロンバイン高校の事件については、マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』を先に観ていました。そちらでは事件を起こした彼らに影響を与えたものは何だったのか、さらにはアメリカの銃社会についてという視点でしたが、こちらはもっとセンシティブに、なんてことはない普通の高校生の日常から恐ろしい惨劇までを描きます。

人物を追うようなカメラワークが特徴的で、生徒何人かのそれぞれの目線で同じ時間が反復されます。誰の目から見てもいつもと同じ普通の日常であることが強調され、物語のリアリティーを高めています。

この映画のリアリティーへのこだわりはもうひとつあって、生徒はみんなオーディションで選ばれた実際の高校生だったそうです。（ジョンもアレックスもこの映画でデビューして、今も俳優として活躍されてます。）役名もすべて本名。彼らの実体験に基づいて作られたというリアルなキャラクターが個性を際立たせていて、特に地味系男子・アレックスの独特の雰囲気は映画そのものの雰囲気にも直結しています。

「キスも知らない17歳が銃の撃ち方は知っている」というキャッチコピーが印象的。結局、犯人の少年たちが何を思ってこの事件を起こしたのかは謎のままです。これが真相だと断言するわけでもないし、はっきり言って希望も救いもないけど、とても切なく美しい映画でした。学校内のヒエラルキーを描き出すという点では『桐島、部活やめるってよ』みたいな青春映画とも言えるかも。